令和4年度 税制改正大綱の解説

令和3年12月10日に令和4年度の税制改正の大綱が発表されました。

税制改正の大綱のタイトル内容として、「成長と分配の好循環の実現」「経済社会の構造変化を踏まえた税制の見直し」「国際課税制度の見直し」「円滑・適正な納税のための環境整備」の4つをメインテーマとして掲げられています。

具体的に、「成長と分配の好循環」では、企業が賃上げをした場合の税制優遇の拡大、スタートアップ企業や既存企業の事業革新を支援するオープンイノベーション税制の拡充など、企業の成長を後押しする税制改正の内容となっています。「経済社会の構造変化を踏まえた税制の見直し」では、個人に対する所得税で「各種控除」や「私的年金「金融所得」に関する見直しも改正の内容としてあげられています。

その他、2023年10月から実施される「消費税のインボイス制度(適格請求書等保存方式)」の見直しの改正も行われております。

改正内容のうち、個人(家計)、中小企業や個人事業者、資産税に関連する改正事項を中心に解説いたします。

 

《目次》

1.個人所得課税

2.資産課税

3.法人課税

4.消費課税

5.納税環境整備

6.まとめ

個人所得課税

住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除(住宅ローン控除)

住宅ローン控除に関する改正が行われております。

現在の住宅ローン控除は、年末ローン残高の通常1%の控除率の金額を原則10年(特例13年)の期間で、所得税と住民税から控除ができます。

今年度の改正では、2022年(令和4年)以降に住宅ローン控除を受ける場合、0.7%に縮減しており、所得要件も現在、「年3,000万円以下」から「年2,000万円以下」に引き下げられます。

控除率が縮減されたのは、住宅ローンの金利が大幅に下がり逆ザヤの状態になっていたためそれを解消する措置とされます。

また、住宅ローン控除の控除対象となるローン残高の上限も見直しされており、住宅の環境性能で4つに区分して、段階的に引き下げられます。

2022年(令和4年)以降も住宅ローン控除は延長になるものの主に増税傾向の改正となります。

具体的には、下記の一覧表の改正内容になります。

    改正前 改正後
一定期間に契約し2021年(令和3年)~2022年(令和4年)に入居

2022年(令和4年)~2023年(令和5年)に入居

2024年(令和6年)~2025年(令和7年)に入居
控除率

1%

0.7%

0.7%

借入限度額(控除期間) 一般住宅(新築) 4,000万円    (13年) 3,000万円  (13年) 2,000万円 (10年)
一般住宅(中古) 2,000万円   (10年) 2,000万円(10年)
認定住宅(新築) 5,000万円   (13年) 5,000万円 (13年) 4,500万円 (13年)
ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)水準省エネ住宅(新築) 4,500万円 (13年) 3,500万円 (13年)
省エネ基準適合住宅(新築) 4,000万円 (13年) 3,000万円 (13年)
認定住宅・ZEH水準省エネ住宅・省エネ基準適合住宅(中古)

2,000万円  

(10年)

3,000万円(10年)
所得要件 3,000万円以下 2,000万円以下 2,000万円以下

*適用を受ける際には購入住宅の契約や入居時期により、住宅ローン控除額の計算が変わりますので、事前の確認が必要です。

上場株式等の配当所得等の課税方式

これまでは所得税で申告した上場株式等の配当の課税方式と異なる課税方式を住民税で選択することができましたが、金融所得課税が所得税と住民税の一体として制度設計されてきたことを踏まえて、改正後は同一の課税方式が適用されます。

  所得税 住民税 適用
改正前 申告不要(所得税15%・源泉徴収) 申告不要(住民税5%・特別徴収)
総合課税(累進税率・配当控除) 申告不要(住民税5%・特別徴収)
総合課税(累進税率・配当控除) 総合課税(10%ー配当控除)
改正後 申告不要(所得税15%・源泉徴収) 申告不要(住民税5%・特別徴収)
総合課税(累進税率・配当控除) 申告不要(住民税5%・特別徴収) ×
総合課税(累進税率・配当控除) 総合課税(10%ー配当控除)

*2024年(令和6年)分以後の住民税について適用されます。

上場株式等の配当所得に係る大口株主等の要件の見直し

上場株式等の配当等について、源泉分離課税を選択することができましたが、株式等保有割合が3%以上の個人株主は、支払いを受ける配当等について20.42%の源泉徴収がされた上で、総合課税により確定申告が必要とされます。

大口株主の範囲として、上場株式等の配当を受ける個人株式の保有株式に加えて、その個人株主が支配関係を持つ同族会社が保有する株式を含めた株式等保有割合が3%以上の場合とされます。

この場合、支払いを受けた上場株式等の配当等は総合課税の対象となるため、個人株主は分離課税の適用をうけることができなくなります。

個人の株式等保有割合が3%未満であっても、支配関係を持つ同族会社の株式等保有割合を合わせた合計額が3%以上となる場合には、累進税率の総合課税の対象となり、上場株式等の譲渡損失との損益通算や申告不要制度の適用も受けられなくなるため、株式等保有割合と課税関係について確認が必要です。

*2023年(令和5年)10月1日以後に支払いを受ける上場株式等の配当等について適用されます。

 

資産課税

住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置

2021年(令和3年)12月31日までに直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置について、適用期限が2023年(令和5年)12月31日まで2年延長され、非課税枠が縮小されます。

また、贈与のを受ける受贈者の年齢要件が20歳以上から18歳以上に引き下がります。

適用の対象となる既存住宅家屋の築年数要件が廃止されて、新耐震基準に適合している住宅用家屋であることが要件に加えられています。

具体的には、下記の一覧表の改正内容になります。

    改正前 改正後
適用期限

2021年(令和3年)12月31日

2023年(令和5年)12月31日

非課税限度額 耐震・省エネ・バリアフリー住宅 1,500万円

1,000万円

上記以外の住宅 1,000万円 500万円
既存住宅用家屋の要件(耐用年数) その取得の日以前20年以内に建築されたもの

築年数要件を廃止

新耐震基準の適合するもの

受贈者の年齢要件 贈与を受けた年の1月1日において20歳以上 18歳以上

*2022年(令和4年)1月1日から2023年(令和5年)12月31まで引き続き適用されます。

 受贈者の年齢要件の改正は、2022年(令和4年)4月1日以後の贈与により取得する住宅取得等資金の贈与に適用されます。

 

固定資産税の負担調整措置

コロナ禍における経済政策として、地価が上昇しても固定資産税を据え置く軽減措置がとられています。

2022年(令和4年)度の商業地等の土地の固定資産税・都市計画税の課税標準は、2021年(令和3年)度の課税標準額に2022年(令和4年)度の固定資産税評価額の2.5%(改正前5%)を加算した金額とされます。評価額の上昇幅を5%から2.5%に抑えて、負担軽減措置が継続されます。

なお、住宅用地等の固定資産税・都市計画税の課税標準額については、通常どおり計算されます。

法人課税

給与等の支給額が増加した場合の税額控除制度の改組

企業の中長期的な成長を実現するために「成長と分配の好循環」の考えをもとに、企業の賃上げを促し、株主だけでなく、従業員や取引先等の多様なステークホルダーへの還元を後押しする目的で積極的な賃上げを行った企業に対して税制措置が改組されます。

継続雇用者の給与総額を一定割合以上増加させた場合、雇用者全体の給与総額の前年度に比べ増加額の最大30%を税額控除する制度が設けられます。税額控除は、当期の法人税額の20%を上限とします。

中小企業については、賃上げを高い水準で行うとともに、教育訓練費を増加させた場合に、給与支給額の増加額の最大40%を税額控除する制度が設けられます。

中小企業の所得拡大促進税制の改正内容

 

改正前

改正後
適用期間 2021年(令和3年)4月1日から2023年(令和5年)3月31日までに開始する事業年度 2022年(令和4年)4月1日から2024年(令和6年)3月31日までに開始する事業年度
上乗せ措置

雇用者給与等支給額の増額割合が2.5%以上であり、次のいずれかに該当する場合は税額控除率を10%加算

①教育訓練費の額が、前年度より10%以上増えている場合

②経営力向上計画の認定を受けて、証明された場合

①雇用者給与等支給額の前年度に対して増加割合が2.5%以上である場合には、税額控除率を15%加算

②教育訓練費の額が、前年度に対して10%以上増加してている場合には、税額控除率を10%加算

少額減価償却資産の損金算入の特例等の見直し

減価償却資産を購入した場合、通常は該当資産の耐用年数にもとづいた減価償却計算により損金に算入されます。少額な減価償却資産については、短期に損金に算入することを認める下記の3つの制度が設けられています。

今年度の改正では、この3つの制度の対象となる償却資産から貸し付けの用に供する資産が除外されます。

制度 少額の減価償却資産の取得価額要件
少額の減価償却資産の取得価額の損金算入制度 10万円未満
一括償却資産の損金算入制度 20万円未満
中小企業等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例 30万円未満

消費課税

適格請求書等保存方式に係る見直し

2023年(令和5年)10月1日以後、免税事業者が適格請求書発行事業者の登録を柔軟なタイミングで受けられるように、免税事業者における適格請求書発行事業者の登録手続きの見直しが行われています。

免税事業者が2023年(令和5年)10月1日から2029年(令和11年)9月30日までの日に属する課税期間中に適格請求書発行事業者の登録を受ける場合には、2023年(令和5年)10月1日の属する課税期間を除いて、課税期間の途中から登録を受けることができませんでしたが、改正後は免税事業者でも任意のタイミングで適格請求書発行事業者の登録が受けられるようになります。

課税期間の途中における登録の可否

  改正前 改正後
課税事業者 課税事業者
免税事業者 原則 不可 免税事業者 令和5年10月1日から令和11年9月30日に属する課税期間
経過措置(令和5年10月1日に属する課税期間) 経過措置(令和5年10月1日に属する課税期間)

納税環境整備

財産債務調書制度の見直し

財産債務調書制度について、現行の財務債務調書の提出義務のある方のほかに、その年の12月31日に所有する財産の価額の合計額が10億円以上ある方も提出の義務が必要となります。

また、財産債務調書の提出期限について現行、翌年の3月15日までの提出期限が、翌年6月30日までに延長されます。

*適用時期は、2023年(令和5年)分以後の財産債務調書または国外財産調書について適用されます。

 

電子帳簿保存法の改正(電子取引データの保存に関する宥恕措置の整備)

令和3年度の電子帳簿保存法の改正により、2022年(令和4年)1月1日以後は、電子データで受け取った請求書や領収書などは書面での保存は認められず、検索要件などを要件にすべて電子データで保存することが求められていました。

しかし、要件を満たすためのシステムの導入や社内体制の整備の準備から、従前と同じく電子データを紙に出力して保存することを容認する旨の宥恕措置が整備されています。

税務署長が要件を充足することができない「やむを得ない事情」があると認められ、税務調査時に電子取引のデータを書面で提示、提出することができる場合には、2年間を猶予期間として、2023年(令和5年)12月31日まで、紙による保存が認められます。

*適用時期は、2022年(令和4年)1月1日から2023年(令和5年)12月31日までの間に行う電子取引について適用されます。

過少申告加算税等の加重措置

過少申告加算税および無申告加算税について、一定の帳簿の提出場ない場合や記載すべき項目のうち収入金額の記載が不十分である場合には、申告もれ等に係る所得税等の5%または10%に相当する金額が加算されます。

正しい記帳義務を履行すること、帳簿水準の向上を担保する点から、帳簿の不存在や記載内容の不備について未然に防止するために、過少申告加算税および無申告加算税について加重措置が整備されています。

ここでの一定の帳簿とは、売上帳、売掛台帳、現金出納帳、仕訳帳、総勘定元帳など、売上金額など収入金額の記載についての調査のために必要があると認められるものになります。

*適用期限は、2024年(令和6年)1月1日以後に法定期限に申告される国税について適用されます。

 

まとめ

今年度の税制改正の内容のうち、個人(家計)、中小企業の経営、資産税に関連する改正事項を中心に解説しました。

個人関係では「住宅ローン控除」の控除率の縮減、「住宅取得等資金の贈与」の非課税枠の縮小、配当課税の仕組みの改正、コロナ禍で導入された固定資産税の負担軽減措置のうち住宅地の適用取りやめなど、個人課税の税負担が幅広い層に影響しそうな改正項目となっています。

今後、個人課税の税負担に影響する動向として「金融所得課税の強化」もあげられています。

また、中小企業にとって「所得拡大促進税制」の見直しは、賃金を上げた場合の税制優遇が拡大され適用される範囲が広がると見込まれます。

「相続税と贈与税の一本化」への課税制度の見直しは、昨年から話題にあがっておりましたが、今回の改正で具体的な改正は行われませんでした。今後の課題として検討を行う方針にありますので、来年度以降の税制改正項目で改正されていくものと考えられます。

 

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